このマニュアルは、宅地建物取引業の免許申請を、ご自身で・費用を抑えて行いたいと考えているすべての方を対象に、準備から免許交付までの全手順を分かりやすく解説するものです。
申請手続きは、大きく分けて以下の3ステップで進みます。一つずつ着実にクリアしていきましょう。
ステップ1:準備・確認編
ステップ2:書類作成・収集編
ステップ3:申請・免許交付編
ステップ1:準備・確認編

いきなり書類作成を始めるのは禁物です。まずはご自身の状況を確認し、申請の土台を固めましょう。
1-1. 免許の種類を知る(知事免許 vs 大臣免許)
事業の拠点となる「事務所」をどこに、いくつ置くかによって、申請する免許の種類が決まります。
| 免許の種類 | 事務所の設置場所 | 免許権者 | 申請先窓口 |
| 知事免許 | 1つの都道府県内にのみ事務所を設置 | 都道府県知事 | 事務所を置く都道府県庁 |
| 大臣免許 | 2つ以上の都道府県に事務所を設置 | 国土交通大臣 | 本店を置く都道府県庁(経由) |
これから開業される方のほとんどは事務所、1つからスタートされると思いますので「知事免許」を申請することになります。
1-2. 3つの必須要件をセルフチェックする
免許を取得するには、「事務所」「人」「金銭」に関する要件をクリアする必要があります。
① 事務所の要件
宅建業の事務所は、他の事業やプライベート空間からの独立性が求められます。この基準は多くの都道府県の手引で厳しく規定されています。
- 物理的な独立性: 他の法人などと同一フロアにある場合、床から170cm以上の高さがあり、隣が見通せない固定式のパーテーションなどで明確に区画されている必要があります。
- 事務所への出入り: 他の会社を通らずに、直接その事務所へ出入りできる構造が望ましいです。
- 自宅兼事務所の場合: 生活空間と事務所スペースを明確に分ける必要があります。玄関から他の居住スペースを通らずに事務所部分に入れるか、などがポイントになります。
- 写真の準備: 申請時には事務所の写真が多数必要です。事前に撮影のポイント(ステップ2で後述)を確認しておきましょう。
宅建協会や全日本不動産協会に加入して免許を受ける場合、各協会による事務所の現地調査があります。調査当日までに事務所をしっかりと整えておきましょう。
② 人的要件
- 専任の宅地建物取引士の設置
- 1つの事務所につき「業務に従事する者5名に1名以上」の割合で、常勤かつ専従の「専任の宅地建物取引士」を設置する義務があります。
常勤性:その事務所に常に出勤していること。専任性:宅地建物取引業の業務に専ら従事していること。(他の会社の役員を兼ねるなどは原則不可)
【注意】専任の宅地建物取引士の「常勤性」「専任性」は厳しく審査されます。
- 勤務実態の確認: 各都道府県の窓口では、健康保険証の写しの提出を求めるなど、常勤性・専任性のチェックを厳格に行っています。
- 名義貸しは厳禁: 勤務実態のない「名義だけ」の宅地建物取引士を設置することは、絶対に認められません。
- 短時間労働者は不可: パートタイマーやアルバイトなど、常勤でない方を専任の宅地建物取引士として申請しても、原則として免許は交付されません。
- 虚偽申請のリスク: もし虚偽の申請と判断された場合、後述の欠格要件(不正な手段による免許取得)に該当し、免許が受けられないだけでなく、将来の申請にも影響が出る可能性があります。
- 欠格要件に該当しないこと
申請者や法人の役員、専任の宅地建物取引士などが、宅建業法第5条に規定する欠格要件に該当しないことが絶対条件です。具体的には、以下のような事項に該当すると免許を受けることができません。申請前に必ず確認してください。
- 申請手続きに関するもの
- 免許申請書や添付書類に、重要な事項について嘘の記載があったり、書くべき重要な事実が書かれていなかったりする場合。 (これは欠格要件とされていますが、実際にはまず書類の不備を正すよう指導されます)
- 過去5年以内の行政処分や犯罪歴など
- 不正な手段で免許を取得した、業務停止処分に違反したなどの理由で免許を取り消されたことがある。
- 上記の理由で免許取消の聴聞(意見を聞く手続き)の通知を受けた後、正当な理由なく廃業したことがある。 (処分を免れるために自ら廃業した場合でも逃げ得は許さない、という趣旨です)
- 禁錮以上の刑に処せられたことがある。(執行猶予期間が満了すれば、その翌日から該当しなくなります)
- 宅建業法、暴力団対策法に違反したり、刑法(傷害、暴行、脅迫、背任など)や暴力行為等処罰法に違反したりして、罰金の刑に処せられたことがある。 (暴力系の犯罪の場合、罰金刑でも欠格要件に該当します)
- 暴力団員である、または暴力団員でなくなってから5年を経過していない。
- 宅建業に関して、不正または著しく不当な行為をしたことがある。
- 個人の状態に関するもの
- 破産手続開始の決定を受けて、まだ復権を得ていない。
- 心身の機能の障害により、宅建業を適正に営むために必要な認知、判断、意思疎通を適切に行うことができない者。
- 役員等に関するもの
- 申請者が法人の場合、その役員や政令で定める使用人が上記のいずれかに該当する場合。
③ 金銭的要件

宅建業の免許を受けるためには営業保証金の供託もしくは弁済業務保証金分担金の納付のどちらかを行う必要があります。
【そもそも、なぜ保証金が必要なの?】
宅地建物取引は高額なため、万が一、事業者の責任で消費者に損害を与えてしまった場合に、その損害を賠償するためのお金をあらかじめ預けておく制度です。これは、消費者を保護するための重要な仕組みです。
【両者の違いは?】
- 営業保証金: 国の機関である「供託所(法務局内にあります)」に、事業者自らが直接、高額な保証金(本店1,000万円)を預ける方法です。
- 弁済業務保証金(保証協会への加入): 全国の宅建業者が加盟する「保証協会」に加入し、比較的少額な分担金(本店60万円)を納める方法です。協会が会員から集めた分担金をまとめて供託所に預けます。
結論として、どちらも消費者を保護するという目的は同じですが、「誰に」「いくら」預けるかが大きな違いです。
| 営業保証金を法務局に供託する場合 | 弁済業務保証金制度を利用する場合 | |
| 必要な金額(本店) | 1,000万円 | 60万円 |
| 必要な金額(支店) | 1カ所につき 500万円 | 1カ所につき 30万円 |
多くの事業者は、初期費用を大幅に抑えられる弁済業務保証金制度の利用を選択します。
よほど資金繰りに余裕がない限り、弁済業務保証金制度の利用を前提に免許申請の手続きを進めるという選択でいいかと思います。
- 保証協会を利用するには、まず母体となる宅建業者団体(ハトマークの宅建協会や、ウサギマークの全日本不動産協会など)への入会がセットになります。
- 入会金なども別途必要になるため、免許申請の準備と並行して、加入したい団体へ事前に相談しておくと手続きがスムーズです。
1-3. 「免許申請の手引き」を手に入れる
申請に必要な書類や書き方のルールは、各都道府県が公開する「宅地建物取引業免許申請の手引」にすべて記載されています。これが自力申請における最重要アイテムです。
免許申請の手引きの入手方法は簡単です。
Google等の検索エンジンで「〇〇県 宅建業 免許申請の手引き」と検索すればすぐに発見できます。。(※「〇〇県」の部分は、事務所を設置する都道府県名に置き換えてください)
この手引をダウンロードし(通常はPDFデータで公開されています)、免許申請書の作成等の作業中はいつでも参照できるようにしておいてください。
ステップ2:書類作成・収集編

このステップでは、ステップ1でダウンロードした各都道府県の「宅地建物取引業免許申請の手引」(以下、「手引」)をあなたのバイブルとして、実際に必要な書類を一つずつ揃えていきます。
書類は大きく分けて「①様式をダウンロードして作成する書類」「②役所や法務局で取得する書類」「③自分で用意・撮影する書類」の3種類あります。焦らず、計画的に進めましょう。
- 書類の順番: 提出する際は、「手引」に記載の必要書類一覧の順番に並べてください。ホチキス止めやファイリングは絶対にしないでください。
- 有効期限: 役所や法務局で取得する証明書類は、原則として申請日時点で発行から3ヶ月以内のものです。取得するタイミングに注意しましょう。
- 部数: 書類は正本1部と、その全てをコピーした副本1部の合計2部が必要です。副本は受付後に控えとして返却されるので、必ず用意してください。
2-1. 様式をダウンロードして作成する書類
まず、申請先の都道府県のホームページから様式をダウンロードし、「手引」の記入例を参考に作成する書類です。ボールペン(黒)で丁寧に記入しましょう。 なお、記入例を見ても分からない場合は、都道府県庁の宅建業免許担当課に問い合わせれば丁寧に教えてもらえます。
| 書類名 | どんな書類? | 作成のポイント |
| ① 免許申請書 | 申請の根幹となるメインの書類。商号、役員、事務所、専任取引士などの情報を記入します。 | 「手引」をよく読み、記載例に沿って正確に記入します。都道府県コードなど、固有の番号は間違えないように注意しましょう。 |
| ② 相談役・顧問、株主等の調書 | 法人のみ提出。相談役や顧問、議決権の5%以上を持つ株主の情報を記入します。 | 該当者がいない場合でも、「該当なし」と記入した用紙を提出する必要があるか、「手引」で確認してください。 |
| ③ 略歴書 | 代表者、役員、政令使用人、専任取引士の学歴卒業後の職歴を記入します。 | 空白期間がないように「無職」などと記入。役員と専任取引士を兼ねる場合、一方の提出を省略できることが多いです。 |
| ④ 誓約書 | 申請者や役員等が、宅建業法第5条の欠格要件に該当しないことを誓約する重要な書類です。 | 内容をよく確認し、商号・氏名を記入します。 |
| ⑤ 専任の宅地建物取引士設置証明書 | 各事務所に、規定の数の専任取引士を設置していることを証明します。 | 事務所ごとの「専任の宅地建物取引士の数」と「従事する者の数」を正確に記入します。 |
| ⑥ 宅地建物取引業に従事する者の名簿 | 事務所ごとに、宅建業に従事する全メンバーの情報を記入します。 | 専任取引士の区別や「従業者証明書番号」の付け方など、ローカルルールがある場合があるので「手引」をよく確認してください。 |
| ⑦ 事務所を使用する権原に関する書面 | 事務所が自社所有か賃貸かを明らかにし、使用する権利があることを証明します。 | 賃貸の場合は、契約書を見ながら契約期間や用途を正確に記入します。 |
| ⑧ 宅地建物取引業経歴書 | 更新申請の場合のみ、過去5年間の事業実績を記入します。 | 新規申請の場合は「事業の沿革」に「新規」と書くだけで、実績の記入は不要です。 |
| ⑨ 貸借対照表・損益計算書 | 法人のみ提出。直近の事業年度の決算書です。 | 新設法人で決算期が未到来の場合は、代わりに「開始貸借対照表」を作成します。「手引」に見本があるか確認しましょう。 |
| ⑩ 資産の状況を示す書面 | 個人のみ提出。申請者個人の資産と負債の状況を記入します。 | 預貯金、土地建物、借入金など、事業用・私生活用を含めてすべて記入します。 |
免許申請書には厚紙で補強した表紙をつけます(ひな型は上記書類と同様に都道府県のホームページからダウンロードできます)。厚紙は100均等でも販売されていますので事前に購入しておきましょう。
2-2. 役所・法務局等で取得する公的証明書
次に、各機関の窓口や郵送で取得する書類です。発行から3ヶ月以内という期限に注意してください。
| 書類名 | 取得する人 | どこで取得する? | ポイント |
| 履歴事項全部証明書 | 法人のみ | 法務局 | 会社の登記情報が記載されたもの。「現在事項証明書」ではないので注意。 |
| 納税証明書(その1) | 申請者全員 | 税務署 | 法人は「法人税」、個人は「申告所得税」の納税証明書です。府税事務所・県税事務所ではないので注意。 |
| 身分証明書 | 代表者、役員、政令使用人、専任取引士 | 本籍地の市区町村役場 | 「破産者でない」「後見の登記の通知を受けていない」ことの証明。本籍地が遠方の場合は郵送請求が便利です。 |
| 登記されていないことの証明書 | 代表者、役員、政令使用人、専任取引士 | 法務局(どの法務局でも可) | 「成年被後見人・被保佐人」として登記されていないことの証明。 |
| 住民票の抄本 | 個人のみ申請者(法人の代表者等は不要) | 住所地の市区町村役場 | マイナンバー(個人番号)の記載がないものを取得してください。 |
本籍地が遠方にある場合、取得に時間がかかる「身分証明書」の請求から着手するのが効率的です。郵便で請求する場合、往復で1週間程度かかることもあるため、早めに請求しましょう。
手数料は郵便局で「定額小為替」を購入して同封するのが一般的です。
2-3. 自分で用意・撮影する書類
最後に、ご自身で作成・撮影する書類です。特に写真は要件が細かいので、「手引」をよく読んで準備しましょう。
| 書類名 | 用意するもの・ポイント |
| 事務所付近の地図 | 最寄り駅からのルートが分かる地図をA4用紙に貼付。目標となる建物や、徒歩での所要時間も記入します。Googleマップ等を印刷して分かりやすく加工すると良いでしょう。 |
| 事務所の写真 | これが一番大変かもしれません。「手引」の指示通りに撮影し、A4の台紙に貼り付けます。 【必須で撮影する写真】 ① 建物の外観(ビル全体など) ② 事務所入口(ビル入口と部屋入口の両方) ③ 入口の表札・看板(正式商号が分かるように) ④ 事務所の内部(全体が見渡せるように複数方向から) ⑤ 事務机、応接セット、電話等の設置状況 【該当する場合に追加で撮影する写真】 ・住居兼事務所の場合:生活スペースとの区画が分かる写真 ・他社と同居の場合:パーテーション等での区画が分かる写真 |
| 事務所の間取図 | 事務所内の机や応接セットの配置が分かるレイアウト図。撮影した写真の番号と撮影方向(→)をこの図に書き込みます。 |
| 専任の宅地建物取引士証の写し | 設置する専任取引士全員分の宅地建物取引士証のカラーコピー(表裏)が必要です。有効期限が切れていないか必ず確認してください。 |
事務所内部の写真を取る際には全壁面を漏れなく撮影するようにして下さい。やや、余分目くらいに撮影しておかれることをおすすめします。
なお、写真の撮影はスマホでOKです。スマホで撮った写真はコンビニで簡単にプリントアウトすることができます。
2-4. 手数料の準備
申請には手数料が必要です。支払い方法は都道府県によって異なります。
| 金額 | 準備すること |
| 33,000円(※金額は手引で要確認) | 多くの都道府県では、都道府県の収入証紙で納付します。収入証紙は、都道府県庁内の売店や、指定された金融機関などで購入できます。購入場所は「手引」で確認してください。申請書に貼り付けて提出します。 |
ちなみに私が免許を受けた大阪では手数料を収入証紙ではなくPosシステムで納付致しました。
また現金納付以外にキャッシュレス決済などもできる都道府県が増えているようです。
各都道府県のルールにしたがって納付して下さい。
ステップ3:申請・免許交付編

書類がすべて揃ったら、いよいよ申請と免許交付に進みます。「手引」のフローチャート等で最終確認しましょう。
3-1. 申請書類の提出
- 最終チェック: 「手引」のチェックリストを使い、書類の漏れ、記入ミス、押印漏れ、証紙の貼り忘れがないか最終確認します。
- 事前予約: 多くの都道府県では、窓口への事前予約が必要です。「手引」で確認し、電話等で予約を取ります。
- 提出: 予約した日時に各都道府県庁の担当窓口へ出向き、書類一式を提出します。その場で簡単なチェックを受け、不備があれば修正(補正)を指示されます。
3-2. 審査
申請後、免許が下りるまでの標準審査期間は、約30日~60日程度が目安です。書類の不備で補正に時間がかかると、その分期間は長くなります。
3-3. 免許通知と営業開始までの最終手続き
審査に無事通過すると、都道府県から「免許通知」のハガキが郵送されます。
注意:この時点ではまだ営業を開始できません!
- 営業保証金の供託 or 保証協会への加入:
- ハガキが届いたら、3ヶ月以内に、ステップ1-2で決めておいた手続きを完了させます。
- 営業保証金の場合: 本店所在地の法務局に1,000万円(支店があれば追加)を供託し、「供託書」の写しを受け取ります。
- 保証協会の場合: 協会で加入手続きを完了させ、「弁済業務保証金分担金納付書」等の証明書を受け取ります。
- 免許証の交付:
- 上記の「供託書の写し」または保証協会の「証明書」と、届いた「免許通知ハガキ」を都道府県の窓口に持参して届け出ます。
- この届出が完了して、ようやく**「宅地建物取引業者免許証」**が交付されます。
免許証の交付を受けて、初めて宅地建物取引業の営業を開始することができます。
免許証の交付を受ける前に営業を開始することは「無免許営業」にあたり、固く禁じられています。
自社のホームページを公開したり、物件広告を出したりすることも営業行為とみなされます。
万が一、免許交付前に営業行為が発覚した場合、免許が取り消される可能性がありますので、十分にご注意ください。
おわりに
自力での免許申請は、時間と労力がかかりますが、一つ一つのステップをこのマニュアルと「手引」に沿って確実に踏んでいけば必ず達成できます。何より、この経験を通して得られる知識は、今後の事業運営において大きな財産となるはずです。
このマニュアルが、あなたの新しいスタートの一助となれば幸いです。免許申請、頑張ってください!
宅建業の免許の申請は行政書士さんを頼らなくても十分、自分で行えるものです。仕事が忙しいなどの事情で自分で申請することが難しいという方以外は基本的に自分で申請されることをおすすめします。





